お相撲さんの鍋は安くて栄養満点(一九九九年一月号)
川崎 両国 縁起担ぎのうまい鶏をじっくり鍋で
創業昭和十二年。両国の裏通りに、黒塀囲いの風情ある佇まいを見せる一軒家。店内は、入って直ぐの調理場を望む五席の小カウンターと小上がり、奥の大座敷。
昔両国には、全国からうまい鶏が集まる鶏肉市場があり、その鶏肉を使用して鍋を作ったのが始まりとされている。また鶏の鍋は、二本足のため「手をつかない」と、縁起担ぎでも食べられるとか。味のべースは、鶏ガラのスープによるソップ炊きで、スープを張った鍋に、鶏肉、レバー、砂肝と、白菜、牛蒡、人参、三つ葉、白滝、薄揚げ、豆腐を入れる。スープを小椀に取り、煮えた具を入れて食べるのだが、何よりも丁寧にとられた澄んだスープが、滋味深く、全体の味わいを盛り立てる。皿の上で艶々と光る柔らかな鶏肉、甘味を感じるねっとりとしたレバー、スープが染み込んだ白菜がうまい。最後に餅を入れるが、麦飯による雑炊の幸せもぜひ。
コース(四千五百円)は、突き出しの鶏味噌と、とりわさか鳥サラダに、レバーと正肉の三本の焼き鳥がつく。叩いた鳥を生で本山葵をつけて食べる「たたき」や、大きいつくね焼きもぜひ。酒は白雪の樽酒がお勧め。
墨田区両国2-13-1 tel.=03-3631-2529
営業時間=17:00~22:00
定休日=日曜祭日 要予約
一の谷 神田 気品あるつくねの味わい
割烹、鰻屋、洋食屋、小料理屋など、下町の粋を感じさせる店が点在する、天神下の裏通りにある。風情ある引き戸を引くと、土壁と三和土、黒光りする梁や柱に囲まれた、落ち着いた空間で、ご主人が収集した、相撲関係を始めとした江戸時代の小物や箪笥等が、至る所に配されている。客席は、幅広のカウンターと小上がりが二つ、奥に六~八人用の小部屋。
元・一の谷関が作るちゃんこの一番の魅力は、薄く桃色に色づいたつくね。鯛のつくねに細かく切った牛蒡を練り込んだもので、ほんのりと甘く、ふわりと口の中で崩れる。醤油で味付けした、しっかりとられた上品な味わいのダシによるスープとの相性もよい。このスープを小椀に取って食べる。ほかの具は、行司軍配型に切った人参、ニラ、白菜、葱、椎茸、コンニャク、ほうれん草。
店の人が仕上げる雑炊は、ふわりと絶妙にとじられた玉子と、鴨頭葱、ダシの味わいがあいまって実にうまし。
赤蕪の新香や白菜漬けも一緒にぜひ。鮮度高い刺身類(千円~)。きんきの煮付け(二千五百円)もお勧め。サービスも小気味よい。鍋(二千五百円)。一人前可。
千代田区外神田2-10-2 tel.=03-3251-8500
営業時間=17:30~23:00 定休日=日曜祭日
玉勝 鶯谷 お代わり必至の青菜の香り高い鶏鍋
下町風情が色濃く残る佇まい。名物女将が切り盛る細長い店内は、入れ込み式の座敷のみ。
ちゃんこは、土鍋に丸鶏を長時間煮込んでとった、やや黄色がかった澄んだスープを張り、薩摩の鶏肉、笹がき牛蒡、人参、白菜、ほうれん草、小松菜、大量のニラ、春菊、豆腐を入れる。青菜類がたっぷりと入るのが特徴で、香り高い鍋となる。もう一つの魅力は、特製ポン酢ダレ。燈を絞ったポン酢醤油に刻んだ深谷葱、青海苔、鶏卵の黄身、一味唐辛子を混ぜ込んだもので、コクと複雑味のあるタレが淡白な鶏の旨味を持ち上げ、ついつい鶏肉のお代りをしてしまうは必至。
最後の締めは雑炊ではなく、ひもかわうどんと餅を入れ、ポン酢ダレにつけて食べる。残ったスープはタレを投入して飲むが、これもまた美味。鍋のコース一種のみで、突き出し、蓮の揚げ物、鍋、うどんに餅で六千円。二人前より。
台東区根岸3-2-12 tel.=03-3872-8712
営業時間=18:00~21:00 定休日=日曜祭日 要予約
古沓 浅草 静かな夜は、滋養に富む鰯のつみれ鍋を
浅草の繁華から離れた場所でひっそりと営む小体なちゃんこ鍋屋。店内は十席ほどの長いカウンターと奥の座敷に分かれている。
丁寧にとられた上品な醤油風味のダシがべース。主役は鰯のつみれで、一人前大きめのつくねが八個。その他の具は、笹がき牛蒡、芹、白滝、煮えるとふっくらと膨れる薄揚げ、白菜に葱。芹の香りがアクセントになっていい。つけダレは、小さなすり鉢で客が各々白胡麻を擦り、スープを入れ、好みでかんずりか柚子胡椒の辛みを加える。筆者のお勧めは、かんずり。雑炊(六百円)は、もずくを入れるのが特徴で、ヌルッとした食感に食が進む。甘辛いタレを付けて素揚げし、胡麻を付けた特製手羽揚げ(六百円)もぜひ。鍋は一人前より二千円。
台東区浅草3-31-4 tel.=03-3875-8115
営業時間=17:30~23:00 定休日=月曜日 要予約
振分 湯島 伊勢えびの味噌の深い味わい「横綱」鍋
かつおだしと薄口醤油による、関西風ダシで食べる鶏のつくねと鰯のつくねちゃんこ鍋の「振分」(二千円)。これに車えびを加えた「大関」(二千五百円)、牛の骨でダシをとり、白味噌を加えたスープに二種のつくねと、伊勢えびを一匹入れた「横綱」(四千五百円)の三種類のちゃんこ鍋が楽しめる。その他の具は、白菜、春菊、葱、人参、椎茸、豆腐、えのき茸。三種のなかでも、あっさりとした味噌味のスープに伊勢えびの味噌の味わいが加わって、味が深くなっていく「横綱」がうまい。店内は入れ込み式座敷。
文京区湯島3-35-13 tel.=03-3836-5888
営業時間=11:30~13:00、17:00~22:00
定休日=日曜祭日
三重の海 門前仲町 豊富な具とバターが生み出す深いコク
ビルの二階、清潔感あふれる広々とした店内には赤小松のどっしりとしたテーブルと、三重の海土俵入りの襖絵が配されている。
ソップ炊きの鍋で、赤銅の鍋に鶏ガラスープとダシを合わせたスープを張る。具は、笹がき牛蒡、大量のキャベツ、カボチャ、小松菜、人参、下茹でした大根とジャガイモ、椎茸、しめじ、えのき茸、葱、白菜、豆腐、白滝、薄揚げ、ふわりと仕上げられた鶏つくね、鰯のつみれと豊富。特徴は、具を入れた後にバターを加えることで、鶏脂とバターの風味が混じりあい、コク深い味わいとなる。このバター風味によって、ジャガイモ、キャベツといった、普段ちゃんこ鍋にお目見えしない具も俄然光り、他のちゃんこにはない魅力を生み出す。また同時に体も芯から温めてくれる。締めは雑炊か細うどんで、上質な脂分が溶け込んだ濃厚な雑炊となる。大量の大根おろしと貝割れを乗せた「かつおのたたき」(千六百円)もお勧め。鍋は三千円で一人前より。てきぱきとした女性陣のサービスも心地よい。
江東区門前仲町2-8-9 tel.=03-3643-6633 営業時間=17:00~23:00
定休日=日曜日
寺尾 両国 三種類制覇、そして味噌味に戻る
寺尾の実兄が営む店。板張りの入れ込み式座敷で食べるちゃんこ鍋は三種類。あわびの貝殻に入れられた鰯のつみれと豚肉が主役の味噌味。鶏肉と鶏つくねのソップ炊き。タラ、キンメダイなどの白身魚を昆布ダシスープに入れ、ポン酢で食べる鍋。他の具は、薄揚げ、人参、葱、春菊、えのき茸、椎茸、白菜。鍋は各二千円。お勧めは味噌味。二人前より。
墨田区石原2-11-2 tel.=03-3626-7541
営業時間=17:00~22:00 定休日=月曜日 予約可